だらだら日記
基本的に結構カオスなつれづれ日記。同人耐性のない方はご遠慮ください。
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手のひら
ひっさしぶりですー。リハビリがてら。
くっついていること前提の坊ルクほの甘です。多分。
※当家の坊ちゃん=シオンさんです。
手のひら
何の気紛れなのだろう。
人気のない街道を歩いている最中、シオンが突然「手を繋ごう」などと言い出した。
「はあ?」
「人目ないし、いいだろ?」
「そういう問題じゃないだろ。片手が塞がると不便だ」
「歩いてるだけなんだからちょっと位不便でもいいじゃないか」
「歩きづらい」
「それじゃ、立ち止まるか?」
「……何でそんなにこだわるのさ」
「手、繋ごう?」
人の話など聞かぬ様子で繰り返されてルックは大きく溜息を吐いた。呆れていることを分かっているだろうに、シオンは嬉々として左手を覆うものを全て外し出している。右手に棍を抱えながらも器用に、人の意見も聞かずに、勝手に。
そして、手袋を袋にしまいこむと、そのままルックに向き直る。
「ん」
差し出されたそれを無視することも出来た。
けれど何だか楽しそうな顔を見てしまうと……はあ、ともう一回溜息を吐いて、ルックは渋々彼の手のひらに右手をのせた。すかさず力を込めて握られて、手のひらに伝わる温度が一気に上がる。それに少し胸を弾ませたことなどおくびにも出さず、ルックは彼の手を引くように歩き出した。
「で、何が楽しいの、これ」
「楽しいさ。俺が」
「僕は楽しくないんだけど」
「そうか?」
「……そうだよ」
言いながらも、言葉ほどの不快さを感じていない自分に気付いてはいた。素直に認めるのも癪だけど、けれど口で何と言おうと彼には見通されているような気がする。繋がった手のひらを通して全て分かられるような気がしたけれど、振り解こうとはしなかった。
この手のひらは、嫌いじゃ、ないから。
おおきな、てのひらだ。
日に焼けて、旅の生活に荒れた手のひらは、触れてみると熱く、厚い。
今はルックの手を優しく包み込む手のひら、けれどその所々にある硬い肉刺からは、彼の振るう棍の一撃の重さを容易に思い浮かべられる。
強い、てのひら。
それでも元々長くしなやかな形のそれは、いくらか節くれだち、爪を短く切りそろえられた今でも、どこか優雅にすら見える。その優雅さは彼の動作に染み付いているものなのかもしれない。
ルックとて細く長い指を持っている。指の長さだけならばシオンにそう負けてはいないが手のひらについては一つスケールが違う。
大きな手のひら。
そういえば背丈に見合わず靴のサイズも大きかった。
――本当ならば、その父にも勝る立派な身つきへ成長していたのかもしれない。
そんなことを思わせる名残。けれどそれは幻想に過ぎない。男性としては小柄なルックがそう見上げるまでもなく、シオンの顔はそこにある。
少年の頃に真の紋章を宿した彼は、もう成長することはない。
紋章を宿してから彼の成長はゆっくりと減速していき、そして間もなく止まった。
その身体つきは少年と青年の境のままで、それ以上成長することは――老いることは、ない。
生まれた時から真の紋章と共にあったルックにとっては当然のこと、けれどシオンにとっては不自然なことだっただろう。
紋章を宿してしばらくした頃の彼はよく、そっと手のひらを見て溜息吐いていたことを知っている。その頃のルックには彼の心情を慮ることなど出来なかった。だから溜息一つに眉間の皺を一つ増やすだけで。
彼の心に寄り添える今は、それについてはあえて触れず、何も言わずに手を重ねている。
「ルックの手、相変わらず冷たいな」
「あんたの手が熱いだけ。……手が冷たいと心が温かいとか、言い出すんじゃないよ?」
「ばれたか」
「まるっと、お見通しだよ」
言って、少しだけ力を込めて大きな手を握る。握り返される。その温度が何だか嬉しい。
軽口を叩きながら、繋ぎ合った手のひらは、決して嫌なものではなかった。
……だからなの?
問いかける目で見上げると、優しい目が応えてくれる。
「うん、ルックと触れ合いたくなっただけです」
「ばか」
「ルック馬鹿、な」
「……ばか」
今度こそすっかり肩を落として、それでも二つの影は繋がったまま。
道の向こうへと、一緒に歩いていった。
(久しぶりすぎて何が何やら分からんのですが、でもルックはいつでも可愛いです!)