待ち合わせ（00）

アレティエ小話です。というかアレルヤとティエリアが出てくる小話です。
久しぶりにノリと勢いで書いたので細かい所は気にしないでプリーズです。

　　　待ち合わせ

――アレルヤ・ハプティズムはまだか！

とんとんとん、と早いリズムで指を机に叩きつけながら、ティエリアの美麗な顔はこの上なく不機嫌な表情を形作っていた。
地上での待ち合わせに、このコーヒーショップを指定してきたのはアレルヤ・ハプティズムだ。
ティエリアは人の多い所は好きではない。ざわつく不規則な人の気配、自分に向けられる興味の視線、地上の重力自体が嫌いだというのに、街中となるともう、あらゆるものが煩わしく感じられる。
けれど今日の目的地がこの近くだから、仕方なく彼の提案に乗ったというのに、肝心の彼は約束の時間を５分過ぎてもまだ姿を見せない。
ティエリアもそうだが、アレルヤもそういった時間は厳密に守る方だと思っていた。しかし、そうではなかったらしい。
もう、彼と外での待ち合わせなどするものか。
イライラと机を叩きながら、遅れて来た彼にどんな言葉を浴びせようか考える。そうすると少しだけ気が済んだティエリアは、ほとんど手付かずのままだったカフェラテに手を伸ばし、一口口に含んだ。
……不味い。
しかもさっきは熱すぎて飲めなかったのが、今は反対に冷めてしまってとても飲めたものじゃなくなっているのだ。
これも全て、アレルヤ・ハプティズムのせいだ。
カップを机の端に追いやって、再び口をへの字に曲げながら、ティエリアは店の外へ目を向けた。
早く来い、馬鹿者め。
じいっと、眼鏡越しに街中を行き交う人の波を見遣る。
それは慣れないと見ているだけで疲れるもので、けれどティエリアは外を見続けた。
休日の街中は老若男女様々な顔が行き過ぎていく。
楽しげな顔、疲れたような顔、様々だ。この世界の別の場所では今も争いが絶えないというのに、それは彼らにとっては所詮他人事でしかないのだろう。目の前にその現実がさらされない限り、彼らは何事もなく自分の日常を過ごしていく。
そんな空気はティエリアの現実とはあまりに乖離していて、だからこそこういった場所は尚更馴染めず過ごし辛い。
そんなことをぼんやりと感じながら、ティエリアは不意に目を眇めた。
待ち人、来たり。
しかし。

（……ああ、目立つな）

たくさんの人に紛れても、背が高く逞しい身体つきの彼はすぐに目に付いた。周囲にいる人々にも――特に女性から――ちらちらと視線を向けられている。
ソレスタルビーイングのガンダムマイスターという身分はバレてはいないとはいえ、見ているこちらが落ち着かないような気分にさせられた。
アレルヤは、今は穏やかそうな笑みを浮かべて、隣の老女と何やら話している。どうせ困った老女の荷物持ちでもしていて、それで遅れたに違いない。彼ならばありそうなことだ。
けれど、今の彼からは戦場の空気は感じられなくて、ティエリアにとって見知らぬ男のようにも見えた。
けれどあの笑顔は自分もよく知った笑顔。
ずっと、あれを待っていた。
ティエリアは席を立った。冷えたカフェラテを片手に店の入り口へと向かう。
その頃にはアレルヤは話をしていた老女と笑顔で別れ、そして時計を確認すると一気に焦り顔になり。
そんな彼へ何と言葉をかけようか。
すう、と息を吸い込んで、ティエリアは店に向かってくる彼を眺めた。
そうして、彼の目がティエリアへとピントを合わせる。びく、と一瞬身を竦めたように見えたが、それでもおそるおそるこちらへやって来る様はある意味面白かもしれない。

「ティエリア、待たせて本当にごめんなさい！」

おろおろと、図体に似合わず気弱そうに頭を下げる彼を見て、少しだけ溜飲が下る。
それは、ティエリアのよく知るアレルヤ・ハプティズムだった。
ティエリアは無言のまま彼にカフェラテのカップを押し付けると、店の外へ出た。
振り返るまでもなく、戸惑いながらアレルヤがついてくるのは分かる。
さあ、遅れて来た分どうしてくれようか。
考えながら街中へ踏み出す瞬間、さっきまでの不機嫌はどこかに飛んでいっていた。



「ねえ、これ、ティエリアの飲みかけ？」
「……それが何だ？」
「え、……ううん」
「意味ありげに頬を染めるな鬱陶しい」
「ええっひどいなあ……」


（一応ここら辺でおしまい）