だらだら日記
基本的に結構カオスなつれづれ日記。同人耐性のない方はご遠慮ください。
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寝言
私が書く話に睡眠が絡みやすいのは、私が寝るのが大好きだからに違いない。
「ティエリア、こんな所で寝てると熱出しちゃうよ?」
言って苦笑したアレルヤは、風呂上りの髪をタオルで拭いながらソファへと近付いた。
大きめの、適度な硬さのソファは、昼寝をするのに丁度良いものだ。
けれど今は夜。寝るのならばソファよりもちゃんとベッドに入って寝た方が良いだろう。
ソファの上、手足を縮めるようにして寝息を立てているティエリアは、アレルヤが近付く気配にうっすらと瞼を上げた。
「あれるや……?」
「はい。眠いならベッドに行こう?」
「……嫌だ」
「ティー?」
「まだ起きている」
「でも、眠いんでしょう?」
「…………」
重たげな瞼を必死に持ち上げているような有様なのに、何をこんなに意地を張っているんだか。
アレルヤは嘆息して、彼の身体に触れた。ティエリアもシャワーを浴びていたとはいえそれはアレルヤよりも前のこと、アレルヤが出てくるのを待つ内に、その身体は今ではすっかり冷え切っている。いくら空調が整っている部屋とは言えこのままでは風邪を引いてしまうのではないだろうか。
「ティエリア?」
「……」
返事をするのも億劫そうなのを確かめて、アレルヤは彼の身体に手を回し、その背と太股の裏を支えるとそのまま軽々と抱き上げた。
うとうと意識が薄れかけて力が入らない身体の重みが遠慮なしに両腕にかかるけれど、この愛しい重みがアレルヤは好きだった。
きっとティエリアがこんな風に無防備になるのは、自分の前でだけ。
そう思うと独占欲も満たされたアレルヤは、改めて力を込めて寝室に向かって歩き出した。
その腕の中でぽつり、掠れて艶の出た声が呟いた。
「何故俺は君にこのように抱き運ばれなくてはならない」
「え」
それは思いのほかはっきりとした口調での、突然の言葉。
アレルヤがその意味を考えている間に、ティエリアは更に言葉を重ねた。
「君はロックオン・ストラトスでも同様に抱き運ぶか?」
「……ティエリアさーん?」
「答えろ」
「えっと、……しないよ」
さすがに自分がロックオンを今みたいに横抱きに――所謂『お姫様抱っこ』の体勢で――抱きかかえる姿はあんまり想像したくない。彼は頼れる同僚ではあるが体格的にはアレルヤに近いし、ティエリアと同じ範疇には決してない。
しかしその答えに不服だったのか、ティエリアは更に、
「スメラギ・李・ノリエガでもか?」
「それは……したら後が怖いかなあ……色々な意味で」
「それならば、」
「ティエリア」
よく分からない問いかけを重ねられて、けれどそのティエリアの様子にアレルヤはぴんと来るものがあって、それをそのまま口に出した。
「僕に抱き上げられるのがそんなに悔しいの?」
「…………」
答えは、返ってこない。
ということは、その通りなのだろう。腕の中のティエリアは悔しそうに恥ずかしそうに顔をしかめていた。もしかして眠気を噛み殺しているのかもしれないが。
「ここは重力もある。ウェイトもそれほど変わらないのに君は何故この体勢を苦としない」
「でも、僕は鍛えてるから」
「俺が鍛えていないとでも言うのか!」
「ティエリアよりも鍛えてるよ、僕は」
ね、と事実を口にして笑んで見せれば、ティエリアは反論の余地を奪われて黙りこくった。
むう、と口を尖らせた表情が幼く見えて可愛らしい。
かと、思ったら。
つー。
びくぅっ!!
「~~~~~~ティエリアぁっ!!?」
「ふん」
悔し紛れなのか、背筋をすうっと指で辿られて、ぞわぞわと身体中を走った悪寒にアレルヤは反射的に身を竦めてしゃがみこんだ。腕の中のティエリアを落とさなかったのは最早意地とでもいえよう。
「ふん、じゃないよっ! 危ないじゃないか、僕が落としたらどうするんだい!」
「俺を舐めるな。それに君は落とさないだろう」
「ティエリア……って、そういう問題じゃなくてね!?」
「五月蝿い。俺は寝る」
「ちょ」
「……君も、寝ろ」
そう言うだけ言って、ティエリアは本当に寝息を立て始めた。
さっきまで流暢に喋っていたとは思えない、無邪気な寝顔には癒される……じゃ、なくて。
これは。さっきのは。
「……盛大な寝言だった、っていうことでいいのかな?」
答えは、返ってこない。返って来るのは安らかな寝息のみだった。
アレルヤは小さく噴き出して、彼を起こさないようにするために必死で笑いを噛み殺しながら、ベッドにその身体をそっと横たえるのだった。
それにしても、いつもの彼はあまり漏らさない弱音じみた本音を聞いてしまった。
明日の朝目覚めた彼にそれを告げたなら、一体どんな顔をするだろうか。そもそも覚えているんだろうか?
……もったいないから、それは誰にも言わないでおこう。