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だらだら日記

基本的に結構カオスなつれづれ日記。同人耐性のない方はご遠慮ください。

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一日遅れのバレンタイン(00)

タイトルそのまんまの小話。
アレティエです。
いつもながらの突発走り書きです。


   一日遅れのバレンタイン

その日、ミッションを終えて一日ぶりに自分の部屋に戻ったアレルヤを迎えたのは、大好きな恋人の仏頂面だった。

「ティ、ティエリア……?」
「……」

アレルヤは、少し腰が引けた。
ティエリアの仏頂面など、珍しいものでもない。既に見慣れたものだ。
しかしそれでも、仏頂面よりは笑顔とか、そこまでいかなくても労いの言葉とか、折角恋人同士になれたんだからそういうのが欲しい。ティエリア・アーデをしてそれを望むのは高望みだとは知ってはいるが、それでも夢は持ちたい。
なのに、むすっとした仏頂面。
今回は、ティエリアにそんな顔をされる覚えが全くない。
それは確かに、今回は二人揃って待機状態だったところに急におりた出撃命令だったが、それをティエリアが厭うわけがない。何せあのティエリア・アーデなのだ。
どたばたしてしまい、ミッションに出る前に顔を合わせることはできなかったけれど、アレルヤが(今回は何のミスもなく)ミッションを達成して戻ってきたのに、この不機嫌さとは訳が分からない。

「…………」

そうして無言のまま、ティエリアはアレルヤに近付いてきた。
何だか親の仇を見るような目をしている。怖い。
しかしアレルヤが動けずにいると、ティエリアは何かを差し出してきた。

「え……」
「…………」

それを、ティエリアがずいっと差し出してきた平べったい四角い箱を、アレルヤは一瞬受け取るのを躊躇した。
するとティエリアがまた余計に怖い顔をするもので、アレルヤは急いでそれを受け取った。
が、今のティエリアの行動は意味が分からなさ過ぎる。

「……え、と。ティエリア?」
「……何も言わず受け取れ」
「はい……?」

地を這うような声でそれだけ言うと、アレルヤの疑問の声など構うことなくティエリアは顔を背けた。
そして綺麗な顔を不機嫌に歪めたまま、今度は口早に言葉を紡ぎ出した。

「……本来ならば昨日だったんだ」
「え、」
「なのに君は昨日戻らずに今日になって、これでは意味がないではないか。しかしそれは君へ渡すためのものだから……」

それ以上は上手く言葉が継げないようで、ティエリアはまた仏頂面に戻る。
そんな彼におそるおそる、アレルヤは訊ねた。
この時にはもう、予感があったのかもしれない。
ティエリアの不機嫌の原因はアレルヤの失敗にあるんじゃなくて、それ以外のことなのだと。
そしてそれは多分――アレルヤにとっては嬉しい予感なんじゃないか、と。

「あの、これ、開けてみてもいい?」
「好きにしろ」
「じゃあ、遠慮なく」

ゆっくりと包装を剥いでいきながら、予感は確信へと変わって行った。
そしてアレルヤが迷いなく箱の蓋を開けると、そこには。

「――ティエリアが、チョコレートくれるとは思わなかった」

そう、今日は2月15日。
昨日は2月14日。ちょうど、聖バレンタインデーだったのだ。
そして、目の前にあるこれはチョコレート以外の何物でもない。
バレンタインらしい、大切な相手への贈り物。
バレンタインのことなんて、ミッションのおかげ忘れてしまっていた。けれどそれ以上にティエリアがそんな俗世間のイベントに興味を持って、参加するなんて全く思ってみもしなかった。
だからこそ、嬉しい。
漂ってくる甘い香りに幸せを感じて、自然と頬が緩んでいくのを感じた。
が。

「う、うるさい……! 全て失敗だ!」
「何が失敗なの?」

それでもいたって不機嫌なままのティエリアに、アレルヤは不思議そうに訊ねた。
これは手作りチョコではない。パッケージからするにそこそこ有名な店のチョコだ。
賞味期限が切れているわけでもないし、何よりこうして無事にアレルヤの手元に届いている。
しかしそれでもティエリアは、まるで自分がミッションを失敗したかのように悔しそうに、

「昨日でなければ意味がないだろう」

と、呟いた。

「は?」
「バレンタインデーとは昨日で、年に一日しかない日で、その日に渡せなければ……意味がないだろう」

……ああ、そうか。アレルヤは合点が行った。
らしくなく、バレンタインなんてイベントに乗っかってみたのに、それなのにその日の内に渡せなかったのが、ティエリアは悔しいんだ。完璧主義の彼らしい。
けれど、アレルヤの不在は急のミッションのためだった。13日の午後に出て、戻るのが15日の今日になってしまったとて、それに文句を言うことはティエリアにはできない。だからこそ不機嫌をぶつける相手が見つからなくて苛々している。
しかも、それが自分らしくないことだと分かった上であえて行動したのに、なのに上手くいかなかったと思っているから余計に悔しくて、だからこんなに不機嫌そうに見えるんだ。
それでも、アレルヤのためのチョコだから。
だから、不機嫌になりながらも隠すことなくアレルヤに渡してきた。
そんなティエリアの仏頂面を見て、アレルヤの笑みは深くなった。

――あ、何かすごく。

「何をにやけている、アレルヤ・ハプティズム」
「ううん……本当に、嬉しくて」
「……所詮は失敗だ」
「そうじゃなくって」

愛しいな、とアレルヤは苦笑しながら口の中で呟いた。
分からなさそうにティエリアは眉根を寄せる。そんな顔すら、愛おしい。
アレルヤは微笑を返しながら、

「別に昨日にこだわらなくていいんだよ。ティエリアが、僕に、バレンタインのチョコをくれようとしたっていうだけで、すごく嬉しい」
「そうなのか」
「うん。ありがとう、ティエリア」
「……そう、か」

そう言うと、ティエリアは仏頂面を止めた。全て納得したわけではないようだったけれど、アレルヤが喜んでいるのならば、とほっとしたように小さな笑みを浮かべた。
それに本当に嬉しくなりながら、しかしアレルヤははっと気付いて頭を抱えた。

「? どうした」
「ごめん……僕からあげる分、本当は昨日作るつもりだったから、今君に渡せないや」

そう、ミッションの前まではアレルヤとて2月14日という日を覚えていた。
ティエリアに渡すチョコケーキは、終日待機の予定だった当日に作るつもりだったので材料は揃えてある。
しかし昨日急遽ミッションが入ったために作る暇がなかった。
しまった。前もって作っておけばよかった。いつ何があるか分からない立場だというのに、これこそ失敗した。
今度はアレルヤが悔しそうに顔をしかめることになった。ああもうどうして僕ってば!

「君から折角もらったのに……」

溜息を吐きながらのアレルヤの言葉に、ティエリアは少し何か考えたようだった。
そしておもむろに眼鏡を外し、アレルヤの左肩に右手をかけて。

「それならば」

言うと、ティエリアは顔を近付けてきて。
あ、と思っていると。
唇同士が、重なり合った。

「……ティエリア」
「今はこれで、いい」

柔らかな温みが離れていきながら、彼が見せた悪戯そうな笑みにアレルヤは、真っ赤になった。
そしてそのまま衝動に任せてティエリアを抱き締めて、苦しい、と苦情を受けて、けれど離すことなんかなくって。
果たして、二人は甘い夜を過ごすのであった。
一日遅れの、バレンタインの夜に。



(余談ですが、アレルヤのチョコケーキは翌日無事作成されたそうです)
(というか……自分で砂吐いてもいいですか)

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