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だらだら日記

基本的に結構カオスなつれづれ日記。同人耐性のない方はご遠慮ください。

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一本だけの傘

アレティエ小話です。

   一本だけの傘

足元に、何かがぶつかった。
何かを蹴りつけた感触が足元に伝わり、隣にいるティエリアが表情を強張らせたのが分かった。

「ごめん、ティエリア!」

自分がティエリアの足を蹴ったんだと、アレルヤはすぐに気付いた。勿論故意ではない。偶然だ。
しかし雨でぬかるんだ足元、彼の服を汚してしまったことは容易に予想がつく。
反射的に謝っても、ティエリアは不快そうな表情を浮かべたままだった。多分、これだから地上は、って思ってるんだろう。
再びの事故を避けるためにアレルヤは慌てて彼から身体を離した。
けれどそれはすぐに、逆にその腕を掴まれ引き寄せられた。

「ティエリア」
「……わざわざ濡れに行くな」
「でも、」
「いいから、ちゃんと傘に入っていろ」

強い調子で言われて、大人しく傘の下に入って、さっきよりも足元に気をつけて歩き出す。
そんなアレルヤの隣で、「だから地上は……」予想通りのことをティエリアがぼやいていた。

今の二人は、一本の傘の下、肩触れ合う距離で街中を歩いていた。
アレルヤとティエリアは数日前に地上に降り、ミッション待機のため、地上でのアレルヤの隠れ家である部屋に二人揃って滞在中である。
ティエリアまでもがアレルヤの部屋に滞在するのは、今回のミッションのパートナーだというのもあるけれど、何より二人が恋人関係にあるからだった。
とはいえ状況を考えるに、恋人同士の甘い生活を営むには緊迫感がありすぎていたのだが、それでもミッションが始まるまではごく普通の生活を営むしかない。
トレーニングやミッションの予習をしつつ、一方では生活に必要な家事も(主にアレルヤが)行う。
料理やら洗濯やら、地上の一つ屋根の下でそんなことをしていると、まるで同棲している恋人同士のようで、何だかくすぐったくもあった。

そして今日は、二人で夕飯の買い物に出た。
地上嫌いのティエリアを外出に誘うのには苦労したけれど、それでも今日は機嫌が良かったのか、一緒に来てくれた、のに。
それなのに、この雨。
帰り際、店を出た途端降り出したそれは、大雨と呼ぶほどではない。
けれど決して小雨でもない。
普通の雨だけれど、そもそも地上嫌いのティエリアは、宇宙にはない『雨』という現象も嫌いだ。
出掛け、雲行きに不安を覚えて念の為にと部屋にあった傘を一本だけ――そもそもアレルヤの部屋には一本しか傘はないのだが――持って出てきたけれど、まさかこんなに早く降り出すとは。
それでも店を出たばかりの時は小雨だった。だからティエリアにだけ傘を差し出して歩き始めたのだけれども、それが徐々に本降りとなってきて。
どんどん雨に濡れ始めたアレルヤに、隣から傘が差しかけられた。

「ティエリア、僕はいいよ」
「これは君の傘だろう」
「いいよ。僕は頑丈だし、ちょっと濡れても大丈夫だから」
「いいから、入れ。体調を崩すような要因は一つでも減らすべきだ。俺達の立場を考えろ」
「……分かりました」

僕としては君が体調を崩すのが心配なんだけど。
アレルヤへ傘を差し出す分だけ、ティエリアの身体が濡れてしまう。
それでも、ティエリアの厚意を拒みきることはできなくて、アレルヤはそっと傘の下に身体をもぐりこませた。

「僕が持つよ」
「ああ」

背の高いアレルヤが持った方が合理的だ。ティエリアはすんなり傘の柄を手放した。
そうして出来上がった今の状況、相合傘という言葉を、彼は知らない。知っていても気にしないのかもしれない。
とはいえ、大の男二人が収まりきるにはいささか傘は小さかった。
さりげなく、アレルヤが左肩を外に出し、その分ティエリアのスペースを大きくとろうとしたけれど、それはすぐに気付かれた。
睨まれる。
仕方がなく元に戻して、けれど少し立った頃にまた同じことを繰り返して、睨まれて。
アレルヤは仕方がなく、最初に却下されていた提案を再び口にした。

「やっぱりもう一本、買って帰ろうよ」
「……嫌だ。早く帰る」

帰る。事も無げにティエリアは口にしたが、その言葉にアレルヤは少し驚いた。
今のティエリアが戻る先、それはアレルヤの部屋だ。
けれどそれをティエリアは戻るではなくて帰る、と言った。アレルヤの部屋に帰るのだと。
そんな些細な言葉の違い。けれどそれに表情を緩めていると、傘を持つ右腕に細い腕が絡められて。
ぴったり身体を密着させられて、アレルヤの鼓動が一気に跳ねた。

「ティ、ティエリア??」
「こうすればスペースの節約になる」
「え、え、……いいの??」
「いいも何もないだろうが」
「そうじゃなくて……まあ、いいか」
「?」

傘に囲まれた、狭いスペースは外からの視線もさえぎってくれるから。
だから、まるで普通の恋人同士みたいに腕を組んで。
二人だけの空間で、どきどきしながらの帰り道。
けれどすぐに帰る建物が見えてきてしまう。
もっと続けばいいのに、そんなことを思ってしまった。



――数年ぶりにその隠れ家の部屋を訪れたアレルヤは、そこがあまりにも変わっていないことに安堵した。
まだ、この部屋はアレルヤのために残されていたらしい。最後に訪れた時と何一つ変わっていなかった。
ただ、ここの主であるアレルヤ自身以外は。
入り口のドアを閉めて、鍵をかける。
入ってすぐの玄関にある傘立てには、一本の傘が立てられていた。それも、変わらない。オレンジ色のそれは、昔ここに来た時に、彼と一緒に使った傘。
その隣に、そっともう一本。アレルヤは紫色の傘を差し込んだ。
――今、ここに彼はいないけれど。
次にここに来るときには、彼の傘を買ってこようと、あの時に決めていた。
相合傘も悪くなかったけれど、あの後のティエリアはやっぱり少し調子を崩していたから。
彼の傘を買ってあげようと。
そして次の雨の日には、色違いの傘を並べて一緒に歩こうと。
余計なおせっかいだと言われるかもしれない。雨の日には外出しないと言われるかもしれないけれど。

二本並んだオレンジと紫の、傘。
アレルヤは優しい眼差しで、それを見ていた。
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